④-2会社は人ではないが、人が動かしている

会社との付き合い方

「会社が決めた」の正体は意外と見えにくい

会社がそう決めた。

会社の方針だから仕方ない。

人事がそう判断した。

上から決まったことだから。

会社員として働いていると、こういう言葉を聞くことがある。

評価が決まったとき。
異動や転勤の内示を受けたとき。
配置が変わったとき。
制度が変更されたとき。
昇進や降格、処遇の話が出たとき。

多くの場合、説明は「会社が決めた」という形で届く。

ただ、そこで引っかかる。

会社が決めたとは、誰が決めたということなのか。

経営なのか。
人事なのか。
直属の上司なのか。
部門長なのか。
現場の事情なのか。
制度上、そう処理されただけなのか。

そこが見えないまま結果だけを受け取ると、納得しにくい。

会社がそう決めたって、誰が決めたのか分からない。

人事は冷たい。

上司は会社側の人間だ。

でも、上司も全部分かっているわけではなさそうだ。

結局、会社とは誰なのか分からない。

こういうモヤモヤは、会社員生活の中でかなり起こりやすい。

会社を一人の人格のように見れば、会社に裏切られたように感じる。
一方で、上司や人事だけを責めれば、会社全体の構造が見えなくなる。

ここで必要なのは、会社を二つに分けて見ることである。

会社は人ではない。
しかし、会社を動かしているのは人である。

この二つを同時に見ないと、会社との付き合い方を間違える。

会社は人ではない

まず押さえておきたいのは、会社は人ではないということだ。

会社には感情がない。
会社には人格がない。
会社そのものが、誰かを好きになったり、嫌いになったりするわけではない。

会社は、制度、数字、規程、前例、リスク、説明可能性で動く。

もちろん、会社の中には人がいる。
上司も、人事も、経営者も、現場管理職も、それぞれ感情を持った人間である。

ただし、会社として判断するときは、個人の感情だけでは決められない。

評価制度がある。
昇格基準がある。
人員計画がある。
原資がある。
組織図がある。
決裁権限がある。
過去の前例がある。
他の社員との公平性がある。
法令やコンプライアンス上のリスクもある。

だから、会社の判断は、個人の納得や感情とはズレることがある。

たとえば、本人は十分に頑張ったつもりでも、評価が上がらないことがある。

それは、上司が嫌っているからとは限らない。
人事が冷たいからとも限らない。

相対評価で枠が限られている場合もある。
等級上、次の評価に上げにくい場合もある。
成果は出ていても、期待役割とは違っていた場合もある。
部署全体の評価原資に制約がある場合もある。

異動も同じである。

本人の希望とは違う異動が出たとき、それを「会社に軽く扱われた」と感じることがある。

その感覚は自然である。

ただ、会社側から見ると、人員不足、欠員補充、育成、組織再編、事業方針、後任計画など、別の論理で動いている場合がある。

ここを見落とすと、会社に対して人間関係に近い期待を持ちすぎる。

会社に分かってほしい。
会社に見てほしい。
会社に報いてほしい。
会社に大切にしてほしい。

そう思うこと自体は悪くない。

しかし、会社は親ではない。
友人でもない。
自分の努力や感情を、すべて受け止めてくれる存在ではない。

会社を人として扱いすぎると、失望が大きくなる。

これは、会社が悪いという話ではない。
会社というものの性質の話である。

会社は、人格ではなく構造で動く。

この前提を置かないと、会社の判断を自分への愛情や裏切りとして受け取りやすくなる。

ただし、会社を動かしているのは人である

一方で、会社をただの構造としてだけ見るのも不十分である。

会社は人ではない。

しかし、会社を動かしているのは人である。

評価をつけるのは上司である。
異動案を作るのは人事や部門である。
方針を決めるのは経営である。
制度を運用するのは担当部署である。
現場で判断を実行するのは管理職である。

会社の判断は、必ず誰かの役割を通じて実行される。

ここが重要である。

会社は制度で動く。
だが、制度を読むのは人である。

会社は数字を見る。
だが、数字の意味を解釈するのは人である。

会社はリスクを見る。
だが、どのリスクを重く見るかを判断するのは人である。

会社は前例を見る。
だが、その前例を今回も当てはめるかどうかを決めるのは人である。

つまり、会社の判断には、構造と人間の両方が混ざっている。

このため、会社の判断に納得できないときは、どちらか一方だけで見るとズレる。

「会社は冷たい構造だから仕方ない」
で終わらせると、人が説明すべき部分まで見えなくなる。

「上司が悪い」
「人事が冷たい」
で終わらせると、制度や組織事情として動いている部分が見えなくなる。

会社は人ではない。
しかし、人を通じてしか動かない。

この前提を置くと、会社への見方が少し変わる。

会社に感情でぶつかるだけでは足りない。
一方で、人間関係だけで丸め込もうとしても足りない。

制度と人。
構造と役割。
会社の論理と、そこにいる人の判断。

両方を見る必要がある。

上司も「会社そのもの」ではない

会社員にとって、会社を最も身近に感じる相手は上司である。

評価面談をするのも上司。
仕事を振るのも上司。
異動の話を伝えるのも上司。
日々の相談相手になるのも上司。

だから、上司を会社そのもののように見てしまいやすい。

上司が言ったことは、会社の意思のように聞こえる。
上司に否定されると、会社に否定されたように感じる。
上司が説明してくれないと、会社が説明してくれないように感じる。

しかし、上司も会社そのものではない。

上司も、組織の中の一つの役割である。

上司には裁量がある。
だが、裁量がない部分もある。

部下への仕事の任せ方には裁量があるかもしれない。
日々のフィードバックにも裁量がある。
評価コメントの書き方にも、ある程度の裁量がある。

一方で、評価の最終決定権がない場合もある。
異動を単独で決められない場合もある。
昇格を自由に決められない場合もある。
人員補充を希望しても通らない場合もある。
部門方針や経営判断に従わざるを得ない場合もある。

上司も、会社の中で板挟みになる。

上からは数字や方針を求められる。
下からは納得や説明を求められる。
人員は足りない。
時間も足りない。
制度上できることにも限界がある。

だから、上司の説明が不十分なことはある。
上司の判断が納得できないこともある。
上司の力量不足が問題になることもある。

そこを無理にかばう必要はない。

ただし、上司を絶対権力者として見すぎるとズレる。
同時に、上司を敵として見すぎてもズレる。

上司は、会社の意思そのものではない。
会社の中で、一定の責任と制約を持った役割である。

この見方ができると、上司への向き合い方も変わる。

感情だけでぶつかるより、上司が処理できる形で伝える必要がある。

何に困っているのか。
何を判断してほしいのか。
どの業務が詰まっているのか。
どの条件なら対応できるのか。
何があれば納得できるのか。

上司の役割に合わせて伝えた方が、話は進みやすい。

人事も「従業員の味方」ではなく、会社機能である

人事に対しても、誤解は起こりやすい。

困ったときに相談する部署。
制度を説明してくれる部署。
ハラスメントや労務問題を扱う部署。
評価や異動に関わる部署。

そのため、人事を「従業員の味方」として期待する人もいる。

もちろん、人事は従業員の相談に乗ることがある。
労務問題を調整することもある。
職場環境を整える役割もある。
社員が安心して働けるように動くこともある。

ただし、人事は従業員個人の代理人ではない。

人事は、会社機能である。

会社の制度を設計し、運用する。
労務リスクを見る。
公平性を見る。
前例を見る。
制度整合性を見る。
法令違反がないかを見る。
組織全体への影響を見る。

だから、人事の対応は、ときに冷たく見える。

もっと自分の事情を分かってほしい。
個別に配慮してほしい。
あの人だけ特別扱いされているのではないか。
なぜ自分の希望は通らないのか。

そう感じる場面はある。

しかし、人事が見ているのは、個人の気持ちだけではない。

その対応が制度上説明できるか。
他の社員にも同じように扱えるか。
前例として残してよいか。
会社としてリスクを抱えないか。
特例運用になりすぎないか。

こうした観点が入る。

ここを知らないと、人事は冷たく見える。

「相談したのに、味方になってくれなかった」
と感じる。

だが、人事は弁護士でも、親でも、友人でもない。
従業員個人の希望をそのまま会社に通す代理人でもない。

人事は、会社の中で人に関する制度とリスクを扱う機能である。

この前提を置くと、人事への相談の仕方も変わる。

感情だけを伝えるのではなく、事実を整理する。
何に困っているのかを明確にする。
制度上、何を確認したいのかを伝える。
どの対応を求めているのかを分ける。
自分の希望と、会社として判断してほしい事項を分ける。

人事が処理できる形にすると、話は進みやすくなる。

会社を見るときは、構造と人を分ける

会社へのモヤモヤが大きいときほど、まず分けて考えた方がよい。

これは制度上の判断なのか。

上司個人の判断なのか。

人事の運用判断なのか。

経営の方針なのか。

現場の都合なのか。

単なる説明不足なのか。

誰かの怠慢なのか。

それとも、自分の期待と会社の役割がズレているのか。

ここを分けないまま怒ると、怒りの向け先を間違えやすい。

たとえば、評価に納得できない場合。

直属の上司が評価を下げたのか。
上司は高く評価したが、部門内で調整されたのか。
評価制度上、昇格枠がなかったのか。
成果は出ていたが、期待役割とは違ったのか。
説明が不足しているだけなのか。

これらは、同じ「評価に納得できない」でも意味が違う。

異動も同じである。

上司が出した異動なのか。
人事主導なのか。
部門間調整なのか。
欠員補充なのか。
本人育成なのか。
経営方針に基づく配置転換なのか。

これを分けないと、すべてが「会社に振り回された」に見える。

もちろん、社員側からすべてを正確に知ることはできない。

会社の意思決定は、外からは見えにくい。
すべて説明されるわけでもない。
本音と建前が分かれていることもある。

それでも、分けて考える意味はある。

怒るべき相手を探すためではない。
次に何を確認すべきかを見失わないためである。

制度の問題なら、制度や基準を確認する。
上司の説明不足なら、面談で確認する。
人事判断なら、制度上の扱いや運用を確認する。
現場都合なら、自分の生活条件とのズレを整理する。
経営方針なら、自分がその会社に残る意味を考える。

こうして分けると、感情を持ったままでも、動き方は少し冷静になる。

会社を見るときは、構造と人を分ける。

この視点は、会社員として長く働くうえでかなり重要である。

感情でぶつかるより、役割が処理できる形で伝える

会社に納得できないとき、感情が出るのは自然である。

なぜ自分なのか。
なぜ説明がないのか。
なぜあの人はよくて、自分はだめなのか。
なぜ会社は分かってくれないのか。

そう感じること自体は否定しなくてよい。

ただし、その感情をそのままぶつけても、会社は処理しにくい。

会社は人格を持たない。
会社は気持ちを受け止める存在ではない。
会社は、制度、評価、配置、リスク、説明可能性で動く。

だから、会社に伝えるときは、相手の役割が処理できる形に変える必要がある。

上司に伝えるなら、業務と役割の話にする。

今の業務量ではどこが詰まっているのか。
何を優先すべきか。
どの判断をしてほしいのか。
どの条件なら対応できるのか。
評価上、何が不足しているのか。

人事に伝えるなら、制度と事実の話にする。

どの制度を確認したいのか。
どの運用に疑問があるのか。
どの事実が問題なのか。
どの対応を求めているのか。
どこまでが相談で、どこからが正式な申し出なのか。

経営や部門方針に関わる話なら、自分の立ち位置を整理する。

その方針の中で、自分に何が求められているのか。
自分の役割はどう変わるのか。
生活条件とのズレはどこにあるのか。
残る場合、何を得られるのか。
離れる場合、何を失うのか。

感情を消す必要はない。

しかし、感情をそのまま提出しても、会社は動きにくい。

会社に伝えるには、感情を事実、条件、役割、判断事項に変換する必要がある。

これは、我慢するという意味ではない。
丸め込まれるという意味でもない。

自分の言いたいことを、相手の役割が扱える形に変えるということである。

会社は人ではない。
しかし、人が動かしている。

だからこそ、伝え方には構造が必要になる。

会社は構造で動き、人を通じて実行される

会社は人ではない。

会社には人格がない。
感情もない。
一人ひとりの事情を、すべて同じ温度で受け止めてくれる存在ではない。

会社は、制度、数字、規程、前例、リスク、説明可能性で動く。

しかし、会社を動かしているのは人である。

上司が伝える。
人事が運用する。
経営が方針を出す。
現場管理職が調整する。
関係部署が判断する。

会社の判断は、必ず誰かの役割を通じて実行される。

だから、会社を感情で責めるだけでは足りない。

「会社は分かってくれない」
「人事は冷たい」
「上司は敵だ」

そう感じることはある。

しかし、それだけでは次に進みにくい。

一方で、人間関係だけで処理するのも足りない。

上司と仲が良ければすべて解決するわけではない。
人事に相談すれば、個人の希望がそのまま通るわけでもない。
現場で評価されていても、制度や原資の制約を超えられないこともある。

会社を見るには、構造と人の両方が必要である。

制度上の判断なのか。
上司の裁量なのか。
人事の運用なのか。
経営方針なのか。
現場都合なのか。

これを分ける。

そのうえで、相手の役割が処理できる形で伝える。

会社は人ではない。
しかし、人が動かしている。

この前提があると、会社への怒りや不信感に飲み込まれにくくなる。

会社を一人の人間のように責めすぎない。
上司や人事を会社そのものとして見すぎない。
制度と人間関係を分けて見る。
そして、自分の伝え方を整える。

それだけで、会社との付き合い方は少し変わる。

次の記事では、会社の中で特に難しい役割である管理職を扱う。

管理職は、会社側の人間に見えやすい。

しかし実際には、上と下、制度と現場、責任と権限の間に挟まれやすい立場でもある。

管理職はなぜ「罰ゲーム」のように見えるのか。

その構造を見ていく。

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